2015年9月に誕生した「アキバコンピューター」
発売より多くのお客様から絶大な支持をいただき、続くアキバコンピューター第二弾「カラバコ(ABC-EN2)」と合わせ、シリーズ累計販売台数はアキバ系家電としては異例の10,000台を突破しました。
アキバ系家電が1,000台売れればヒットだと言われる中で、アキバコ(ABC-o33)の開発秘話で語っているようにそれは正真正銘の「限界を超える画像安定装置」となりました。
お客様からの多くの喜びの声を受け、私たちはとても満足していました。
でも、まだ足りないような気がしてもいました…。
満足しているのに、まだ足りない。
実に妙な言い回しです。
私たちは常にハラペコですし、お客様もそのようです。
初代アキバコは完売し、カラバコも依然好調に販売数を伸ばしていますが、2017年も新しい製品の開発を続けます。
どうしても作りたい製品があったからです。
それは、デジタルとアナログを「掛け」合わせた一つの製品です。
アキバコに代表されるHDMIデジタル入力レコーダー全盛。
どんな映像媒体もデジタル化し、より高画質で高精細な映像を視聴することが当たり前になっています。
しかし、私たちが追求するべきものは本当にそれだけでいいのだろうか?
ある日、開発者が実家の物置を整理していると、古いビデオテープが大量に見つかりました。
油性ペンで書かれた父の文字。
「1988年 運動会」
「箱根旅行」
など、見覚えのある筆跡とともに懐かしい思い出が蘇ります。
実家にはまだVHSのデッキがありましたが、ほとんど使われることがありません。
あと数年もすれば、このテープの中に残っている映像は失われてしまうかもしれない。
ふと、アナログ画像安定装置の存在が頭をよぎります。
いまもまだ、多くの家庭にはビデオテープがあり、きっと同世代の誰かや、もう少し若い世代の誰かも開発者と同じ郷愁に駆られるだろう。
アナログはまだ、その思い出とともに色褪せないのです。
時代と逆行するようにいまはもう衰退してしまったアナログ機器のことを調べました。
かつてアナログ画像安定装置「BLADE-W」を開発した私たちには、ノウハウがあり開発は難しいことではありません。
いまこそアナログ機器を復活させよう。
そして、アナログとデジタルを掛け合わせた製品を作ろう。
すぐにプロジェクトは進行しました。
製品名は、「アキバコX」
アキバコXという名前には、私たちの思いが込められています。
前述のとおり、今回のコンセプトはアナログとデジタルの融合です。
まず、HDMIデジタル入力レコーダーとしての機能はもちろん、アナログ入出力の画像安定装置の機能を搭載したいと技術に伝えました。
しかし、最初の回答は予想通りいまの時代にアナログ端子の搭載は不要ではないかというものでした。
最新を追う技術者にとっては、過去の技術の復元を理解できないようでした。
しかし、私たちはただ新しいものを開発していけばいいというものではありません。
日進月歩でデジタル化が進む現代、アナログの需要が減ることはあっても無くなることはありません。
そう、確信しています。
VHSのデッキを現役で使用している方は多くないでしょうが、VHSにしか残っていない貴重な映像はまだ無数にあるはず。
アナログ専用の画像安定装置はまだ販売されています。私たちや技術者にとってそれらは過去の製品ですが、必要としている人はまだまだ多くいるのです。
技術者から「BLADE-W」を再販すればいいんじゃないかという提案が浮上しましたが、
…それは違う。
一緒にできる製品があればもっといい。
思いを伝えるのに数週間を要しました。
そしてついに技術者を納得させ、アナログとデジタルを融合させる製品の開発に進展したのです。
実はこの計画は、初代アキバコが完成した2015年9月からありましたが、開発を始めるまで約一年掛かりました。
そして、2017年、ようやく製品化することができたのです。
私たちの思いが、実現したのです。
進歩に向かうベクトルと、過去を振り返る反対のベクトルが交差し、「X」となりました。
さらに、コンポジット端子(S端子)からHDMI端子へのアップスキャン、HDMI端子からコンポジット端子へのダウンスキャンも可能にし、これもXの形で表現しています。
初代アキバコ、二代目カラバコでは、OSにandroidを搭載していました。
そこへ追加してアナログ端子とアップダウンコンバート機能を搭載すれば、価格を維持するのは困難でした。
単純なアナログ画像安定装置なら10,000円以下で手に入りますから、アナログの需要を取り入れたHDMIデジタル入力レコーダーを発売するのであれば価格を抑えることが重要でした。
でも、アナログもデジタルも欲しい、に応えたい。
そのために、思い切ってandroidをまるごと削除。
インターネット機能は一切取り除き、デジアナ録画、アップダウンコンバートに特化した製品にすることで、価格を20,000円引き下げ50,000円を切ることに成功しました。
この価格なら、「アナログだけでいいのだけど、デジタル対応もできたらいいな」という声にも応えられます。
2017年7月、これらの機能・価格をもって、シリーズ最新作アキバコXの生産を開始しました。
技術サイドと、サンプル機と機能・精度のやり取りをしていく中で、私たちはもう来年の企画を構想しはじめていました。
アキバコXは、アキバコ(カラバコ)に手が出づらかったユーザーに対して、またアナログ需要に対して呼びかける製品であり、これは新しい顧客層の取り込みでした。
つまり、両者をお持ちのユーザーに対してはあまり用のない代物、「BLADE-W」の再販で十分です。
それでいいのか…。
生産は始まっている。いまからこの企画を修正するのは難しい。
しかも「ではなにをすればいいのか」がわからないのである。
しかし、私たちは自ら生まれてしまった問いである、それでいいのか…に対して、答えを出さなければいけないのです。
そこで私たちは、来年の企画の構想にあった、ある機能について開発を急ぐことに。
技術サイドから次の製品でなら実現することが可能だとされていた機能「動画編集機能」を実装する。
アキバコやカラバコのユーザーに対しても価値のある製品であること。それがどれだけ重要かを説きました。
あと一年かかると言われていた機能ですから、無理難題は承知していました。
当然、発売に間に合うはずがない。
でも、なんとしても今回のアキバコXで搭載して欲しい。
発売が遅れてもいいのか?
遅れてもいい。
これは、新規顧客にも、既存顧客にも必要とされる製品にしたい。
そしてついに、技術もその気持ちに応え、昼夜、労を厭わず開発を進行しました。
結果、一年早く、発売日を遅らせることもなく「動画編集機能」を実装したモデルの生産に成功したのです。
製品名に乗せた思い、アナログとデジタルの融合を表すX。
これに、動画編集機能があるという意味を付与できなかったのは、ロゴマークがすでに筐体に印字されてしまっていたからです。
予約販売を開始すると、すぐに期待していた通り、顧客情報のデータベースにある見慣れた名前のお客様から多数の注文をいただきました。
同時に、初めての購入と思われるお客様からの注文も多くあり、まさしく期待していた通りの反響をいただくことができました。
アキバコX発売から間もなくしたある日、秋葉原の店頭に初めて見るお客様がご来店されました。
お話を伺うと、私たちの製品を多数愛用していてくれているようでした。
初めてお会いしたにも関わらず、接客したスタッフもなぜか懐かしいような気分になり、なんとなくそのお客様のお名前を伺うと「Tです」と名乗られる。
Tさん
そのやり取りを裏で聞いていたWEB担当も、配送担当も、もちろん接客していたスタッフも、一瞬仕事の手が止まる。
スタッフ全員が知っているお得意さんの名前でした。
2017年、年の瀬。
10年も前から当店を利用していただいているTさんが初めて秋葉原店舗に来てくれて、そのとき販売していた「福袋」を買ってくれました。
差し入れまでいただいてしまいました。
顧客情報のデータベースにある名前。
なぜか、初めて見る顔なのに、心が揺れた。
私たちの中のアナログな場所で、とても大切なものが目覚めたような気がしました。